癌について

エクソソームによるがん診断

2021.03.18

 エクソソーム含有タンパク質に注目して、エクソソームのプロテオミクス解析データを用いる機械学習を行った。その結果、エクソソームをマーカーとして使うことで、がん患者と健常者を分けることができるだけでなく、がん種の特定にも有効であることが分かった。

 我々は、426のヒト由来サンプルを用いた分析で、様々な組織(血漿、血清、手術組織等)からエクソソーム全てに共通する「エクソソームマーカー」候補の探索を行い、13種のタンパク質が全ての組織由来エクソソームで共通して高頻度に検出されることを見出した。そのうえで、様々なステージの16種類のがん(乳がん、肺がん、中皮腫、膵臓がん、大腸がんなど)の患者の血漿由来エクソソームのプロテオミクス解析を元に、機械学習を用いてエクソソーム含有タンパク質の種類によってがん種を分けられることを発見した(図4)。さらに、がん種特定やがん非がんを分けるために用いることができるエクソソーム含有タンパク質パネルには、がん細胞が直接産生するエクソソームだけでなく、その他の“正常細胞”から得られるメッセージが有力であることを明らかにした。これらの結果から、がん細胞が産生するエクソソームだけでなく、得られる全てのエクソソームによってがんの有無を確認でき、さらにがん種の特定まで可能であることを見出した。つまり、がん患者の血液には、がんの進行度合いに関係なく十分な量のバイオマーカーが存在していることになる。

図1 がん患者血中エクソソームのプロテオミクス解析によりがん種別にクラスタリングすることが確認された。

 Hoshino et al. Cell 2020で発表した研究成果は、特に膵臓がんなどの、早期ステージではなかなか見つからないがん種の特定に用いることが期待できるという点で、非常に大きなインパクトがあるといえる。また5%ほどの患者では、転移は見つかるものの、どの種類のがんが原発なのか分からない「原発不明がん」としてがんが見つかることがある。そうした患者のがん種をエクソソームで特定できれば、これまで原発巣が不明なため治療法を選ぶのが困難だった患者の診断基準となると期待される。また診断の際に、一つのソース(例えばがん細胞)だけに頼ると、それが何らかの理由で検出できなかった時に偽陰性が生まれる恐れがある。エクソソームから得られる情報を用いれば、体内の様々な細胞ががんの存在に対して反応しているサイン全てをバイオマーカーとして活用できるため、そうした見落としの可能性を低くできると考えられる(図3)。前述の機械学習では、がんの診断としては感度95%、特異度90%の結果が得られた。

図2 肺がん患者の血中エクソソームを回収するとがん細胞や様々な細胞由来のエクソソームが混在している。

 今後はさらにサンプル数を増やして分析を行い、がん種についてもさらに幅広く検討する必要がある。今回は概念実証(proof of principal)としての論文となったが、今後実用化に向けて研究を進めていく予定である。さらに、本研究では必要なタンパク質パネルが特定されたが、今後はその全てが必要であるか、どのパネルの使用が最も有用であるかについても検討する。

Other Research

その他の研究内容
エクソソームの多様性の解明
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